
北海道旭川工業高校 情報技術科教諭
下村幸広
電子回路を学ぶ高校生の目標になる大会が二つある、一つは、今年は11月に札幌市で開催される高校生ものづくりコンテストの「電子回路組立」。もう一つは、8月7~8日に宇都宮市で開催された若年者ものづくり競技大会の「電子回路組立て」だ。
若年者ものづくり競技大会は、20歳以下で企業に所属していない若者が学校などで学んでいる技能を競う場として設けられ、今回で11回目を迎える。主催は厚生労働省と国内最大の技能大会である技能五輪を主催する職業能力開発協会で、技能五輪に準じた課題が出題され、この点は授業の延長線上にある高校生ものづくりコンテストとは趣が異なる。

「電子回路組立て」の出場者は、全国各ブロックの予選を勝ち上がった工業高校生10名と、都道府県の職業能力開発協会が推薦した14名の計24名。過去10回の結果をみると、高校生の優勝が8回と圧倒していて、高校生に分がある。今年の顔ぶれは、常連校の旭川工業高校、小野工業高校、松山工業高校、鶴崎工業高校のほか、初出場の高校勢、そして18歳以上の職業訓練各大学校の精鋭たちだ。やはり今回も、各地区でのし烈な予選を戦ってきた高校勢に分があると考えていいだろう。
この大会では、運営スタッフや学校関係者以外にも、社内に技能五輪チームをもっている自動車メーカーやカメラメーカーが視察に訪れ、指導者と名刺を交換する姿をよく見かける。実際、ここで活躍した選手は企業の技能五輪チームに所属して競技を続けることが多く、たとえば昨年、ブラジル・サンパウロで開催された第43回技能五輪国際大会の電子機器組立てで優勝した今多和歩選手(札幌国際情報高校出身)は、第7回の若年者ものづくり競技大会の準優勝者だ。
リオオリンピックのメダルラッシュに沸く8月8日午前8時50分、4時間の競技が始まった。「電子回路組立て」は、前半は電子回路の製作、後半は作成した電子回路用を制御するプログラムの作成と、まったく異なる技能を組み合わせた、いわゆる組込み技術を競う競技だ。

選手の途中順位は作業の様子から推し量るしかないが、唯一はっきりとわかるのは電子回路製作完了の順番である。競技開始スタートから40分過ぎ、電子回路製作を最初に終えたのは、松山工業高校の北本悠真選手だった。ほどなく旭川工業高校の帯川留維選手、高岡工芸高校の竹田亮太選手と続いた。今年もやはり高校生が強いようだ。
北本選手はプログラム課題も順調にこなし、翌日の結果発表で見事金賞(優勝)/厚生労働大臣賞に輝いた。競技前日、北本選手を指導している山岸貴弘教諭に話をうかがう機会があって、「選手のできには自信がある」と言っておられたが、それが現実のものになった。日頃の努力が実った瞬間である。
会場の別室では、同じIT系競技の「ITネットワークシステム管理」も行われた。こちらは出場選手17名中、高校生は2名と、高校生が活躍する「電子回路組立て」とはまったく違う様相だった。出場枠が1県1名になり、高校生には敷居の高い大会になってしまったのが残念である。ネットワークやサーバーに興味をもつ高校生の目標となるべく、「電子回路組立て」同様、高校生出場枠を設けてほしいものである。
選手たちは全身全霊をかけてこの大会に臨んでいる。指導・支援する先生方の労力は並大抵ではない。この大会を通して、日本のものづくりはそれを支える先生方の奉仕によって成り立っていることをあらためて痛感した。多くの若者がものづくりに興味をもち、切磋琢磨しながら、ライバルよりよいものをつくりあげる――大会の目的は概ね達成できている。そんな感想を抱いた。
(写真:ITジュニア育成交流協会 市川 正夫)